四川省涼山イ族自治州でこのほど、SNS上で自作の動画を投稿する若者が貧しさと病気で死亡し、その悲惨な境遇が注目を集めた。若者が死亡する直前にイチゴの値段が高すぎて買えないと訴えたことは中国社会に衝撃を与えた。中国当局は、全国各地の貧しい農村部で「脱貧困」を達成したと大々的に宣伝している最中での出来事だった。
死亡した若者は、「墨茶Official(以下は墨茶)」というユーザー名で、昨年2月中国の動画共有サイト「哔哩哔哩」(ビリビリ、bilibili)で自作の動画を投稿し、ライブ配信などを行った。同氏が投稿した74件のうちの46件は自身の日常生活に関するもので、若者が亡くなってから、フォロワー数は、以前の百人余りから、25日午後12時半の時点で約132万人まで急増した。
「墨茶」の友人は19日、ネット上で「『墨茶』が今月初(具体的な死亡時間は不明)、貧困と病気で亡くなりました」と発表した。
「墨茶」の実名はわかっていない。年齢は1998年生まれの22歳と報じられている。
ビリビリで自作動画を投稿しているユーザー、「御坂伊里奇」はネットを通して墨茶の友人となった。昨年8月30日、「御坂伊里奇」は、病気に罹った「墨茶」の治療費のために、ネット上で募金を始めた。当時、「御坂伊里奇」によると、「墨茶」は数カ月前から体の不調を感じ、病院で診察を受けた。病院側は入院を勧めたが、「墨茶」は治療費を出せないため入院しなかった。
「墨茶」を知るネットユーザー、陳思旭氏は中国紙の取材に対して、友人らはお金がないため治療を受けられないと知って、「墨茶」に少し費用を出した。「墨茶」が動画の編集に使う機材も、友人らが提供した中古のものだという。
陳氏らによると、「墨茶」は四川省涼山イ族自治州大涼山地区の出身だ。高校まで進学し、成績優秀の学生だった。祖母の病を治療するために、両親は巨額の借金をした。祖母が亡くなった後、両親は借金取りを避けるために、他の都市に行った。
涼山イ族自治州は中国で最貧困地域の一つだ。
「墨茶」は生計のために一時、他の地方で荷役工の職に就いた。毎月の収入が800元(約1万2817円)で、家賃を除くと後に、毎月の生活費は300元(約4806円)しかなかった。2018年4月、雇用主の給料支払いが滞ったため「墨茶」は雇用主に直に給料の支払いを請求した。しかし、雇用主に追い払われた。その後、「墨茶」は友人にお金を借りて、地元に戻ったという。
わずかな生活費で満足した食事も取れず、飢えを耐えるしかない「墨茶」は胃の病気を患った。同氏は複数回ビリビリ上で、「胃が痛い。つらい」、「胃が痛くて寝られない」と書き込んだ。
友人らによれば、「墨茶」は病院で胃潰瘍と胃炎と診断された後、友人らの支援金を使って病院で点滴を受けただけで帰宅した。また、友人らは「墨茶」に対して、政府の「低保(生活保護に相当)」を申請するようにと勧めた。しかし、「墨茶」は、自身が身体障害者ではないため、病気が理由では申請できないとした。
友人らは、「墨茶」は優しい青年だと話した。野良の子猫を保護し、子猫に無乳糖ミルク1パックを買って与えた上、知人に子猫の世話を頼んだ。
昨年12月29日、「墨茶」はビリビリ上で、「とってもイチゴが食べたい。最近、病気で食べたものをすべて吐いた。それでも、とってもとってもイチゴが食べたい。でも、イチゴは高すぎる」と投稿した。その1週間前の冬至である21日、「墨茶」は、「他の動画を見ると、皆餃子を食べている映像だ。でも、私は小さいときから今まで、冬至に餃子を食べたことがない。初めてこういう習慣があると知った」と書き込んだ。
涼山イ族自治州会理県政府の担当者は今月22日、中国メディアに対して、「青年(墨茶)は10日ごろ死亡した。大家さんが見つけ、家族に知らせた。遺体はすでに火葬され、母親が喪主だ」と話した。
一方、23日、四川省政府系メディア「川観新聞」は記事を掲載し、「墨茶」は貧困で亡くなったのではないと主張した。
同記事によれば、「墨茶」の両親は離婚し、母親と一緒に生活していたが、生前「性格が偏屈で」「両親との関係が悪く」「食いしん坊の怠け者だ」とした。
官製メディアは、「墨茶」の家は「貧困層ではない」と強調した。母方の祖父は「毎月政府の手当と養老保険金(年金)などの収入がある」「2階建ての家を持っている」という。さらに、母親の話として、「家の経済条件は悪くない」とした。母親は車や不動産を持っているほか、他人と「足マッサージの店を共同経営している」。
一部の「五毛(ネット世論誘導員)」は、「墨茶」の家庭は中間層で、同氏の死亡の原因は「家族との関係をうまく対処できなかったことにある」と宣伝した。五毛らは、若者の死は「社会や政府と全く関係ない」とした。
一部のネットユーザーは、政府系メディアの報道の信ぴょう性を疑問視した。
SNS大手微博「ウェイボー」で動画を投稿するユーザーは記事の信ぴょう性を疑っている。「この記事には彼の家庭事情を知る関係者の話しかなかった」「彼が困難に直面していたとき、お母さんはなぜ出てこなかったのか」
「墨茶」の死は、昨年末に予定通り、小康社会(ややゆとりのある社会)を全面的に実現したと宣言した中国当局にとってマイナス材料であるとの見方がある。ネットユーザーらは、当局は政府系メディアを通して不都合な情報を隠そうとしていると批判した。
(翻訳編集・張哲)
転載大紀元 エポックタイムズ・ジャパン
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